『面影日本』Roots of Japan(s)
経済産業省はクール・ジャパン戦略の一環として、松岡正剛氏 (編集工学研究所 所長)編集のコンセプトブック 『面影日本Roots of Japan(s)』を作成しました。これはクール・ジャパンの源泉となる日本のクリエイティビティをまとめたもので、11月4日「CREATIVE TOKYO フォーラム」での、このコンセプトに関する松岡氏の講演も好評を博しました。
松岡氏講演全記録はこちら

聞き手:経済産業省クリエイティブ産業課 高木美香
==タイトル「Roots of Japan(s)」につけられた松岡さんの想いは何でしょうか?
日本はもともと、一途で多様な国であり民族でした。神の国であり仏の国でもありましたし、天皇や幕府や内閣が共存し、東国・西国ではそれぞれ金の決済・銀の決済があり、津軽と薩摩ではだいぶ違う価値観を持っていました。そのように多様な日本を表現したいと思っていたのですが、John W. Dower 氏(日本近代史が専門のアメリカ人歴史学者)が『敗北を抱きしめて』という本で「語るべきは『Japanese Cultures』であり、『Japanese Traditions』である。『Japan』ではなく『Japans』と言った方が外国人には理解しやすい」と書いていたことに共感し、タイトルとして使わせていただきました。
Rootsという言葉には、根から枝が出たり花や葉になったりするように、深層・中層・表層にある日本がさまざまに立ち上がってくるようなクール・ジャパンであってほしい、という意味を込めています。また、Rootsは「分母」とも言えます。「携帯ストラップがはやる」といった現代の流行も江戸の根付(ねつけ)がルーツであるように、実は何かしらの文化的基盤、つまり日本の分母が影響して生じている現象なのだと思います。
==世の中での日本文化の語られ方についてどのように感じていらっしゃいますか?
昔、イタリア大使に「日本の本質はAmbiguity(曖昧さ)ですが、それが単なるメッセージの不明確さだと思われているのは不幸です。日本のAmbiguityがそのまま自信をもって海外に出て行くことは出来ないのでしょうか」と言われました。この時に、「あはれ」と「あっぱれ」(注:『面影日本/Roots of Japan(s)』12、13頁)のような、日本人が持つ二重の価値観をそのまま海外に伝えていくべきではないかと思い立ちました。それ以来、方法の国としての日本について考えるようになりました。クール・ジャパンのムーブメントにおいても、日本の文化が、デュアル=二重性を持って分母から立ち上がっているということを表現したいと思っています。
==デュアル性というコンセプトは、モノやサービスに具現化することは可能ですか?
「機能」、「属性」、「アピアランス」のそれぞれについて組み合わせが可能だと思います。機能で言えば「聞く」と「録音する」が一緒になってウォークマンになるといった発想は日本独特のものです。属性についても、布や紙など素材の多様性がありますし、またアピアランスについては「時計なのに球体である」といった二重性を持つものが日本からは出てきます。
==日本が色々な国の文化を受け入れて編集してきたことともつながりますね。
そうですね。縄文のころから、稲、鉄、漢字が国外から一緒に入ってくるということが日本では起きていました。西洋の歴史では本来別々のものですが、それらが一緒に入ってきたために、互いを組み合わせることが出来たのです。これは今中国や新興国に携帯やPCが一緒に入ってきていることと同じですので、日本人も、こうした編集が本来得意なのであるということを早く再認識しなければならないという危機感もあります。
==世界はフラット化していますが、文化は均一化していますか?
文化もフラット化したように見えますが、どの地域においても今後はRootsが立ち上がってくると思います。そのときには、衣食住と、その周辺に付随するさまざまな道具や空間といったもの、さらに「もてなし、しつらい、ふるまい」もセットにした方がよいと思います。
日本文化がなぜ均一化しないですむかというと、グローバリズムに敗けない生活と技能があるからです。それを重要視してきたのが日本です。内田繁さん(インテリアデザイナー)が「インテリアがどれだけ欧風になっても、日本人は靴を脱ぐ。またそれにまつわるふるまいがある。」とおっしゃっているように、日本の文化的特徴は常に生活技能がセットになっています。これがみんなが感じる日本の「面影」です。これにより日本の特異な文化性は維持できますし、こうした特徴を持ち出すことで、日本を世界に訴えることも出来ると思います。
==そうした日本の本来の姿を、どのような方法で海外に伝えたらよいでしょうか?
日本を表現する「もの」、それを伝える「人」、そしてそれらをお金に換える仕組みの3つが大切ですが、現在の日本は「ものはあるが人が少ない、またお金の仕組みがさらに遅れている」という状況だと思います。製品として伝えることはそれなりに出来ていますが、「クール・ジャパン」を体現する料理人やスポーツマン、アーティストとなると、こうした才能の存在が世界にまだまだ知られていないように思います。またお金については、結、講、座、連、組(本書16,17頁)といった、組織を伴う日本独自のマネタイズモデルを積み上げる必要があると思います。
例えば、野沢温泉は温泉しかなかったところ冬にスキー場を開き、夏には野沢菜を開発しました。そしてさらに温泉権というものをつくり、野沢の男性が外部のお嫁さんをもらうと権利が数倍になるという仕組みを導入しました。
そうした日本独自の仕組みを取り入れながら、モノ、人、金が連携出来ると、海外へのクール・ジャパンの展開がより明確になると思います。こうしたモデルがもっと増えたらよいのではないかと思っています。また、表彰制度などの「場」の仕掛けが日本には足りません。今は欧米の土俵で戦っていますが、日本の文化を活かし、日本がリードできる場をつくることが必要だと思います。
==独自の文化を活かすため、読者にこの本をどう活用して欲しいですか?
「あはれ」と「あっぱれ」(本書12、13頁)といった場面を実感して欲しいと思っています。またその上で、自分のクリエイティビティを、「守・破・離(本書28、29頁)」、「真・行・草(本書26,27頁)」といったものがたりにシナリオ化してほしいと思います。ものがたりをつくる際は「スクリプト(ものがたり)」、「シーン(場面)」、「キャラクター(登場人物)」、「ナレーター(語り部)」、「ワールドモデル(世界構造)」が必要です。
==皆が関わるための方法として、インターネットに期待されることはありますか?
桂離宮は、全容が最初から観られるのではなく、ある場所にさしかかると次が見えてくるといった構造になっています。また、「ここと向こうが扇子一本で亭主と客にわかれたりする」というささやかな仕切りは日本独特のものだと思います。こうした表現力の中に潜んでいる「方法日本」を再発見すれば、様々なウェブやFacebookに代わるものを日本で作れるかもしれません。
日本は「すべてをあからさまにはせず、伏せて開ける」ことがうまいのです。そのわずかな仕切りをつくることで周辺部分が蘇ってきます。ウェブもジョブスの発想に敗けないでそういった仕掛けになって欲しいと思っています。一見するとオープンなウェブなのに、そこに独特の器とコンテンツの組み合わせを導入するということをもっと試みるといいと思います。
==この本は日本について知りたい人が開けるわずかな隙間を見せていますね。
今回はわざと「チラ見せ」をしていますが、この先に第二弾が必要です。また、映像化やイベント化が必要です。そのためにも、次は日本独特の「起承転結」がある基本的なものがたりをつくりたいとも思っています。また、そこにデータを導入したいと思います。例えば一つの家屋の中に簾などの「伏せるためのもの」がどれだけあるのか、といったことをデータで検証したいですね。これにより、日本文化を生き生きとしたメッセージとして提供し、また世界から日本の本来と将来を発見されていきたいと思っています。
The Ministry of Economy, Trade and Industry made a concept book "面影日本:Roots of Japan(s)" with Mr. Seigo Matsuoka, Executive Director at Editorial Engineering Laboratory and President at ISIS Editorial School.
The Great East Japan Earthquake prompted many Japanese people into facing three critical issues: What lies at the root of Japan? What should Japan be like, as a home country? What vision should Japan have for the future? This book tries to dig deeper into the "roots" of Japan and to explore its diverse cultures.
Mr. Seigo Matsuoka's keynote speech at Creative Tokyo Forum from here (with English translation)
